大判例

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東京地方裁判所 昭和24年(ヨ)2451号 決定 1949年11月01日

申請人

鶴岡弘一

外八名

被申請人

日本製靴株式会社

主文

被申請会社が昭和二十四年八月二十六日申請人等九名に対して為した解雇の意思表示はその効力を停止する。

理由

(イ)  申請人等の主張の要旨は

申請代理人は、申請人等は被申請会社の従業員で、同会社の従業員により組織されている通称日本製靴労働組合(正式には昭和二十年十月三十日結成以来全日本化学労働組合東京支部日本製靴分会と呼称せられたが、昭和二十四年八月三十一日大化学産業労働組合東京支部日本製靴分会と改称)の組合員であるところ、昭和二十四年八月二十六日他の従業員三十六名と共に被申請会社より一方的に解雇の通告を受けた。

然しながら被申請会社と日本製靴労働組合との間に昭和二十一年十月三十一日締結された労働協約の第六条には「会社ハ組合ノ承諾無クシテ従業員ノ解雇ハ一切之ヲ行ハザル」旨の規定が存し、又右労働協約に基き昭和二十二年九月一日右両者間に締結された就業協約の第四十三条には「従業員ハ事業ノ縮少ニヨルトキハコレヲ解職スル、但シ分会ノ同意ガ必要デアル」旨の規定が存する。

而してこれらの協約は右労働協約第十二条((1)本協約ノ有効期限ハ昭和二十一年十月二十一日ヨリ向フ一ケ年トシ有効期間一ケ月前双方何等異議無キトキハ更ニ向フ一ケ年間其ノ効力を継続ス爾今此ノ例ニ依ルモノトス、(2)但シ有効期間中ト雖モ協約更改セントスル時ハ双方協議ノ上之ガ決議ヲ為スコトヲ得、(3)新協約成立スルマデハ本協約ハ其ノ効力ヲ失ハザルモノトス)の更新規定に基き昭和二十二年十月三十一日及び昭和二十三年十月三十一日順次更新され昭和二十四年十月三十日迄右更新の効力を継続するものである。然るに被申請会社の申請人等に対する前記解雇の通告は右協約の存続期間中に拘らず日本製靴労働組合の承認なくして為されたものであるから協約違反として無効である。

加之、被申請会社は表面上は経営合理化のための人員整理であるといつているけれども、真実は申請人等が組合活動に熱心であり組合役員乃至役員であつた経歴を有するところから、これらを集中的に選んで馘首し以て申請人等所属の右組合を切崩さんとしたものに外ならない。従つてこの点からしても右解雇は不当労働行為として労働組合法第七条第一号に違反し無効たるを免れない」

というにあり。

(ロ)  被申請会社の主張の要旨は

「右労働協約に付ては被申請会社は昭和二十三年八月三十一日、日本製靴労働組合に対し協約改訂の申入を為して異議を述べたから、同協約第十二条末項によつて本協約の効力は昭和二十三年十月三十一日以降は新協約成立迄を条件として存続するに至つたところ、被申請会社は昭和二十四年六月十日労働組合法第十五条第一項により右組合に対し協約廃棄の通告を為したから、こゝに右協約は失効し従つてその後に行われた本件解雇は右協約の拘束を受くべき筋合でない。

仮に右廃棄の通告によつて本協約が失効しなかつたとしても、その後に於て日本製靴労働組合は昭和二十四年七月二十三日分裂し、同月三十日には組合員総数三百六十四名中脱退者二百三十四名の多きに上り、これらの者は別に日本製靴従業員組合を結成するに至つたので、申請人等残留組は遂に同年八月初日本製靴労働組合を解散した、仮に解散の事実が認められないとしても、同年八月二十六日の本件解雇の直前には日本製靴労働組合の組合員は更に減少し、全従業員の僅か九分の一強の人員を止めるに過ぎない状態であつたから、もはや組合としての同一性を失つていたものといわなければならぬ。従つて右労働協約も如上日本製靴労働組合の解消と共に当然消滅に帰し本件解雇当時には、もはや存在しなかつたものといわねばならない。

尚本件解雇は被申請会社がその経営権に基き企業の経営合理化のために行つたものであり、而かも被解雇者の選定に当つては欠勤過多者、病弱者、経営非協力者という解雇基準を定め、これに従つて選衡したものであるから固より有効であつて、何等不当労働行為に該当するものはない。」

というにある。

(二) 当裁判所の判断の要旨

(イ)  本件労働協約の効力に付て

被申請会社は昭和二十三年八月三十日、日本製靴労働組合に対し本件労働協約の改定申入を為して更新に対する異議を述べたと主張するけれども、被申請会社提出の疎明方法の程度を以ては未だ適切有効な改定申入が為されたものとの心証を得難く、他に被申請会社の右主張と肯認するに足る何等の疎明資料もないから本件労働協約はその第十二条第一項の更新規定により、昭和二十三年十月三十一日より更に向う一ケ年更新されたものと認むべきであり、その後昭和二十四年六月十日被申請会社によつて為された協約廃棄の通告の如きは何等右更新の効力に消長を及ぼすものではない。然り而して日本製靴労働組合が昭和二十四年八月初解散したとの被申請会社の主張事実に付てはこれを認めるに足る疎明なく、又右組合が日本製靴従業員組合の分立により組合員の多数を失つたとはいえ、残留者の存する限り存続することは当然であつて仮令組合員数の増減が甚だしい場合でも、その一事のみから直ちに組合の同一性が左右されるものと考えることはできないから本件の場合に於ても前記解雇当時日本製靴労働組合は少人数ながら尚厳存し、従つて本件解雇は当然前記労働協約第六条の拘束を受け被申請会社は事前に日本製靴労働組合の承認を得べきものといわなければならない。

尤も右協約条項が存するからといつて、被申請会社は如何なる場合に於ても常に必ず右組合の承認を得なければその従業員の解雇ができないと解すべきではない。企業の存続のため経営の合理化を必至とし、これがため従業員の解雇も已むなしとせらるる場合には、従業員も亦これを忍受すべきものであつて、協約事項を楯にこれを拒否することは許されない。斯かる場合には同意拒絶権の濫用として会社側は組合の承認を得ることなくして有効にその従業員を解雇せることができるものというべきである。翻つて本件が斯る場合に該当するか否かに付て考えてみるに、成程被申請会社の主張するように製靴原料資材の再取得価格を基準にすれば、被申請会社の将来の企業採算面からみて、若干の人員整理の必要があるものと一応は推測されるが、被申請会社の資産の評価には尚相当の含みがあり、現在迄各期の決算面に於ても一応黒字となつている点等からすれば、他の多くの事例にみられる如き既に赤字経営に陥つている会社と異り、被申請会社の経営合理化は主として将来の堅実性への考慮から出発しているもので人員整理の必要があるとしても今早急に四十五名の人員を整理しなければならない程の緊急の必要があるか否かは多少疑わしい。然しこの疑問は今暫らく措き、仮に被申請会社に人員整理の緊急必要があるとしても、斯かる場合被申請会社は日本製靴労働組合をして、その然る所以を十分に納得せしめた上、整理員数並びに整理基準等に付、更に組合と慎重協議を重ねて、整理案を決定すべきものであり、それにも拘らず組合が故なくこれを拒否するときは会社は組合の承認なくして解雇を断行し得ること前記説示の通りであるが、本件の場合被申請会社は日本製靴労働組合を黙殺して一方的に解雇案を作り、同組合の承認を求めることなく、その従業員に対し一方的に解雇の通告を為したことが疎明せられるから、被申請会社は企業経営者としての責任を尽したものとは到底いい得ず従つて本件解雇は前記労働協約第六条に違反し無効といわねばならない。

(ロ)  不当労働行為に付て

本件解雇に付ては、右協約違反の外尚労働組合法第七条第一号違反の廉があるからこの点からも無効といわねばならない。

以下この点に関する判断を述べる。

被申請会社は本件解雇は企業の経営合理化のために行つたもので而かも整理の対象となる者を選定するに当つては予め解雇基準を定めこれに従つて行つたものであり、特に申請人等日本製靴労働組合の関係者を対象としたものではないと主張する。成程被申請会社に於ても経営合理化の必要はあつたであろうが前項(イ)に於て説示した如く早急に四十五名の人員整理をしなければならない程の緊急の必要があるか否かは多少疑わしい。

然しこの点は仮に被申請会社主張の通りとしても、次に説明する如く、申請人等九名の本件解雇は経営合理化による人員整理の機会を利用して為されたもので、申請人等が日本製靴労働組合の組合員であること乃至組合活動を為したことを実質上の理由とするものであることを窺知するに難くないから労働組合法第七条第一号違反というべきである。

即ち被申請会社は申請人等を解雇した理由として欠勤過多、病弱、経営非協力等の理由を挙げているが、その中で経営非協力者であること、換言すれば申請人等が作業時間中無断で作業を抛棄した事例が多く且つ他の従業員に対し職場抛棄を煽動したということが申請人等九名に共通した最も重要な理由であると考えられる。成程申請人等は組合業務専従者でなかつた時に於ても作業を抛棄した事例は屡々あつたようであるがそれは概ね申請人等が所属の日本製靴労働組合の執行委員、代議員その他の役員をしていたため、執行委員会、代議委員会への出席、その他組合業務執行のためであつたと認められる。勿論一般の場合作業時間中に組合業務専従者以外の組合役員乃至組合員が組合業務のため職場を無断で離れることは労働協約にその旨を認める特約条項がない限り原則として正当の組合活動とは解し難い。今本件の場合に付て考えてみるに、被申請会社と日本製靴労働組合との間に於ては昭和廿三年八月より同年十月末迄は生活補給金等の問題で、昭和廿四年一月十四日より同年二月八日迄は賃金四〇%値上げの問題で、同年五月六日より同年七月十九日迄は生活補給金、退職金支給規則の改正、専従者給与等の問題で夫々労働争議が継続し、この間経営協議会の協議もまとまらず、昭和二十三年八月よりの右一年間約五ケ月を除いては常に組合は被申請会社と鋭く対立し闘争体制を採り、昭和二十四年六月十一日には遂に二十四時間ストライキが決行された次第であるが、これら争議を通じて申請人等は組合役員としてその中心人物となり、而も被申請会社に対する要求事項に付ては強硬派に属し執行委員会代議員会等で活動し、このため前記の如く作業時間中屡々職場を離れ作業を抛棄する結果となつたものであつて、被申請会社が解雇理由とする職場抛棄やその煽動の事例の中には申請人等の右労働争議中の行為を指すものが相当多く含まれているようである。

而して右の如く争議行為の発生し、又は発生する虞れのある争議状態にある場合に於ては、労働協約中に特約がなくても組合役員が団体交渉の下準備又は闘争体制確立等のために必要な限度に於て、職場を離れることも我国労働界の現況に於ては強がち違法視すべきではないであろう。

少くともこれを目して甚だしく不当な組合行為であるとはいい得ないであろう。(尤もこの場合作業抛棄の時間に対する賃金の請求は許されないものと解すべきであろう。)然り而して労働組合法第七条第一号に「労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて労働者を解雇する」とある場合の正当な行為中には多少不当なりともその程度の甚だしくない行為をも包含するものと解するを相当とするから、被申請会社の挙示する職場抛棄やその煽動の事例の大部分は右法条に所謂労働組合の正当な行為に属するものといい得るであろう。尤も右挙示の事例中組合活動の範囲を逸脱したと思われるものも二、三ないわけではないが、これらはそれのみにては未だ解雇事由とするに足りない程度のものと思料せられる。

加之作業成績に付ても申請人等は鈴木忠一を除いては中等程度の者より優秀であり鈴木忠一にしても中等以下とはいえ同人の属する製甲料に於ては同人より劣等な者が解雇されずにいる次第であつて、又解雇率からしても解雇人員四十五名の従業員総数に対する割合は一割三分弱であるのに対し、解雇人員中前記争議解決の昭和二十四年七月十九日当時組合役員であつた者十四名の解雇人員に対する割合は三割一分の高率を示しており、又右十四名の解雇は当時の組合役員二十五名に対してその半数以上に達し、尚昭和二十三年十月より昭和二十四年三月迄組合役員であつた者を基準にすれば二十三名中十一名、昭和二十三年四月より同年十月迄組合役員であつたものを基準にすれば二十名中九名が何れも解雇されており、組合役員であつた者の解雇率が非常に高い。

これらの諸点からすれば申請人等に対する本件解雇はその理由はともあれ実質上は同人等が日本製靴労働組合の組合幹部であつたこと乃至は前記労働争議に於て申請人等が被申請会社に対する関係で強硬且つ熱心に組合活動を為した故を以て為されたものであることを窺知するに難くないから、不当労働行為として本件解雇はその効力を発生するに由なきものといわねばならない。

(ハ)  仮処分の必要性について

以上解雇が一応無効であると認められるに拘わらず本案判決の確定に至る迄被解雇者として扱われることは現在の就職困難の時代に於て蓄財のない申請人等にとつては生活それ自体すらが著しく脅かされるのみならず、本決定理由中前段説示の通り今尚存続するものと認められる申請人等所属の日本製靴労働組合の団結の維持も亦極めて困難となるから、これらを避けるため前記解雇の効力を停止し被申請会社をして申請人等を従前通りの地位に復せしめる仮の地位を定める仮処分を為す必要があるものと認定する。

尚申請人等は職場に於ける業務追行行為に対する妨害排除、賃金支払、差別待遇禁止等の具体的な仮処分をも併せ求めているがこれらは法律上本件解雇の効力を停止することによつて、申請人等が当然享有し得べき権能であり被申請会社も本決定が適法に取消される迄はこれに服すべきは当然のことであるから、これらは一応被申請会社の任意の履行に俟つべきである。

依つて主文の通り決定する。

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